ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
最新話(10/19) 改訂中(8/7) 最新記事(10/14) ラジオ(10/17) アジト教室14 掲示板
エッセイ『靴の墓場』へ|俺たちは風(続編)へ→



ぼくたちと駐在さんの700日戦争

  序章『俺たちは風』



「俺たち、つかまっちまうのかな‥‥‥‥」

「つかまるわけがないさ。だって、俺たちは

 風なんだぜ。

 誰にもつかまえられないさ・・・」


その時。俺たちは確かに風になった。

時速30キロメートルの壁をめざして。

「捕まるかな?」

「つかまんネーよ。


  だって、俺たち




    自転車だもん」




そうです。これはあまりにしょーもない実験でした。

その日、友人のひとりがバイクで捕まりました。
速度測定レーダー、いわゆる「ねずみ獲り」です。
制限速度30kmのところを、彼は「原付バイク」で50km出してしまったのです。
これが事の発端でした。

そこは下り坂であったため、原付バイクでも容易に速度を超過してしまいます。
彼にはそれがたまらなく不愉快だったのです。

彼の不平不満を聞いているうちに、ひとりが言いました。

「なぁ、自転車もレーダーに捉えられるのかな?」

つまらない、しかも、実に興味のある疑問です。

「金属だから捉えられるんじゃない?」
「でも、自転車ってスピードメーター、ないよね?」
確かに。

「だいたい免許がないだろ?」
確かに。

この話に、みんな身を乗り出しました。

ここはひとつ「実験」するしかない!


そこは、いつもネズミ獲りを行う、言わば定番のような場所でした。
突然30km制限になる下り坂は、警察にとっても、とってもおいしいスポットなのでしょう。

下見が、報告に来ました。

「まだやってる!今ならできるぞ!」

そうです。彼がつかまって1時間ほど。まだ速度取締は終わっていませんでした。

「よし!出動だ!」

我々は、20人近くの仲間で、この実験に挑みました。
まるでこの日のための5段変速。僕だけが、なぜかママチャリでしたが。

レーダー、つまりねずみ取りのはられる直線道路のちょっと手前に同級生の家がありました。
そこが我々の前線基地です。
向こうも死角に隠れていますが、こちらも向こうからは死角にあたる場所でした。

 あゝ、あの胸の高鳴り。


作戦はこうです。

この道路は30km制限。
そこにチンタラした車が来た時に、合図とともにスタート!
車の前を自転車で全速力で走る!
もし、車に負けてしまいますと、元も子もない実験ですので、車に対し、50mほどのハンディを持って走り出す、という算段。

あとはひたすらペダルを漕ぐのみ!
レーダー測定の目前を、ただただ全速力で通り過ぎる、というものです。


「俺たち、つかまっちまうかな?」


おそらく、みなさんも興味しんしんの結果は続編へ!
そこには、とっても意外な結末が・・・・

エッセイ『靴の墓場』へ|俺たちは風(続編)へ→

俺たちは風(前編)へ|俺たちは風(続々編)へ→
エッセイ『靴の墓場』



俺たちは、ただ必死にペダルを漕いだ。
 そうしていれば、まるで、時間をも追い越せるような気がして。
  やがてそのペダルが、錆び付いて動かなくなることを知りながら。


と、言うわけで、『俺たちは風』続編です。
内容とかけはなれたポエジーな導入部は、当然「直木賞」を意識してのことでございますが、とりあえず「まともなことも書けるんだ」ということだけ、ご理解いただければけっこうです。
前編をお読みでないかたは、『俺たちは風(前編)』よりお読みください。こっちから先に読もうなんざ10年早いのでございます。


さて。ねずみ獲りレーダーで、自転車は捕まるのか?

この人類永劫の謎に挑戦することにいたしました我々ですが、とりあえず、自転車が何キロオーバーまで出せるのか知らなくてはなりません。
そこで捕まったヤツの原付と、自転車を並走させまして、自転車の速度を測定することにいたしました。
いちいち全員やってられませんから、「最も速度超過できるであろう」陸上部にいたやつの記録をとることに決定。
自転車は、スーパーカー「ロードマン」です。ロードマンの開発者(ブリヂストン)も、よもやこんなしょうもないことに使用されるとは思ってもみなかったでしょう。

ブリヂストン・ロードマン
  <ブリヂストン・ロードマン>

で。ロードマンの最高速度。

なんと。「58km」でございました。すげ!

と言うか、もっと出たのだと思いますが、並走した原付バイクがボロで、これ以上計れなかったのです。
いずれにせよ、この大記録に我々は驚喜いたしました。

「やった!ぜんぜん速度オーバーじゃん!」
「ああ。これなららくらく違反間違いなしだ!」
「うまくいけば30kmオーバーも夢じゃないぜ!」


もう、この会話自体、尋常じゃありません。
この広い日本国でかつてかわされたことがあったのかどうか・・・。

これで「違反」確定!

あとは出発するのみ、です。

順番は「インパクトが大切」ということで(そういう問題か?)、ロードマンくんがトップに決定。
次からは、単独ではなく2台ずつの出走、ということにしました。
これは万一の際、逃走に便利だからです。
我々は、良くも悪くも、こういったシチュエーションに馴れておりました。

そうこうしているうちに、後方で待機していた仲間より「車が来たぞ」サイン。

さぁ。第一走者スタートです!

ちょうど軽自動車が見えたか見えないかのうちに、彼は猛烈な勢いでレーダーへと向かって走り出しました。
それはまるで国家権力にひとり立ち向かうヒーローのようでもありました。

我々は、その結果を知るため、道路に出て、彼の背中を見守りました。

彼は速かった!
後方から来た車が、ぜんぜん追いつけません。

そして、レーダー前を全速力で通過!

一瞬。おまわりさんが道路に出て来たのが確認できましたが、彼は捕まりませんでした。

 やった!

実験結果は「つかまらない」ということです。

我々は、彼が裏通りから戻ってくるのを待ちました。
とりあえず、飛び出した警官が気になったのです。

やがて息をきらして第一走者がもどってきました。

「どうだった?」
興味津々のみんな。
すると

「なんか声かけられたけど・・・」

お?

「でも、無視しちゃった」

ふむぅ〜。微妙な結果。

これではよくわからないので、第2走者と第3走者を送り出すことに決定。
まぁ、いずれにしても全員走るつもりでおりましたが。

というわけで、第2、第3走者は2台で全速力!
並走すると捕まりますから、縦2台。

これをわくわくと後方から見守る我々。

と。またおまわりさんが飛び出しました。
彼らは、これをよけるようにして通過。

やがて2人も、息を切らしてもどってきました。

「止められた」

え!

「でも無視してきた」

あやしい雲行きです。
ひょっとして捕まるのか?
いや。こちらには速度計も免許もありません。つまり捕まる根拠そのものがないはず。

結論は単純でした。
「じゃぁ次行こう!」

第4、第5走者もまったく同じ結果でした。
そして異変は第6走者でおきました。


  続々編へつづく


俺たちは風(前編)へ|俺たちは風(続々編)へ→
エッセイ『靴の墓場』

俺たちは風(続編)へ|俺たちは風(完結編)へ→
エッセイ『靴の墓場』



ここまでお読みの方には、おおよそ判ったことと思われますが、我々の真の目的は、自転車が速度測定にひっかかるかどうか?だけではございません。言うまでもなく、原付バイクで捕まった仲間の「あだうち」のために「国家権力に一矢報いる」というものです。
したがいまして、第5走者まででおおよその結果が判っていても、もとよりここでやめるようなものではなかったのです。

速度測定をしているおまわりさん達にしても、定期的に全速力の自転車が走ってくるのは、さすがに不自然。
おおよそ、彼らも我々の「悪意」に気づいたことでしょう。

逆に、我々の後ろを走って来た車たちは、我々とほぼ同等の速度で走っているにもかかわらず、捕まることはありませんでしたから、ある意味、人助けもしていたわけで、世の中、なにが良くてなにが悪いのかよくわからんものです。

しかし、なんらかの形であれ、捕まってしまうと、どういう罰則が待っているかわかりませんから、我々は作戦の変更を余儀なくされました。

「よし。一度の人数を増やそう」

集団になれば、おまわりさんが捕まえにくくなります。
そこで我々は、第6走者から、一度に8人を送り出すことにしました。
ここに僕も参加いたしておりました。

そして8人が一斉に縦列スタート!

さすがに8人は壮観!自転車とは言え、迫力がちがいまんがな。

それまでは、気づかれぬように静かに走っていた我々でしたが、すでに開き直っておりますので、もうみんな叫びながらの疾走です。

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

これは、なにか美しくさえありましたねぇ。
バニシングポイント、とでも言いましょうか。太陽につっこむ最終回の鉄腕アトムとでも言いましょうか。

しかし、我々は肝心なことを忘れておりました。
こちらが作戦を協議できた、ということは、相手も「作戦を協議できる」ということです。

バニシングポイントに近づいた時、おまわりさん達がわらわらと出て参りまして、4名がよけきれずに止められ、3名が突破。
そして。ママチャリで最後尾だった僕は、余裕で止められてしまいました‥‥‥。

しかし。この事態に陥りながら、我々はまだヘラヘラしておりました。
なんと言っても、減点される免許がないんですから。

おまわりさんの一人がたずねました。
「お前ら、なにをそんなに急いでいる?」

「いや。家でいろいろと待ってるもんですから‥‥‥」

「ほぉ。なにが?」

「いや‥‥‥犬とか‥‥‥そうそう!アイスクリーム。出しっ放しなんで」
「そうですそうです。それと煮物の火かけっぱなしで‥‥‥」

  主婦か?お前は。
  こういう小技のギャグが通じる相手か考えてもらいたい。

おまわりさんは、ニコリともせず
「とにかくコッチに来い」

こういう正式な交通検問所を見るのは初めてでした。
そのことに、すでにキョロキョロしていた我々ですが、
まぁ、運動会の本部みたいなもんでしたね。

「まぁ、座れ」

「なんですか?僕たち、自転車で競争してただけですけど」

初めてまともな「打ち合わせ通り」の言い訳をしたのは僕です。
僕は、友人たちの度を超した(ある意味普段通りの)能天気さが、ちょっと気になり出しておりました。

「座れ!」

この時、飼い犬の気持ちが初めてわかりましたね。

そしてこれが生まれて初めての「公式な尋問」でした。



  まだまだ続く!驚愕の結論はCMのあと


俺たちは風(続編)へ|俺たちは風(完結編)へ→
エッセイ『靴の墓場』

俺たちは風(続々編)へ|第1章 宣戦布告へ→
エッセイ『靴の墓場』



い、いざかやク~ポン・・・

CM終了。

延々と4日にも渡って続きました『俺たちは風』。ようやくの完結編です。
たいへん意味も無く長らくお待たせいたしました。本日「自転車は速度違反をとられるか?」の結論を明かします。


とりあえず、この時点で、おまわりさんにとっつかまりましたのは、僕を含めまして5名。
誰でも、特に若者はそういう傾向が強いのですが、ひとりと5人は大違い。
「警察に捕まっている」という極端なシチュエーションでありながら、我々は笑顔を絶やさぬさわやかな若者、言い換えれば態度でけーでけー。

こちらも5人もおりますので、お相手のおまわりさんも2名。うちひとりがわが町の駐在さんです。

先方の切り込み隊長は、若い駐在さんでした。

「おまえらなぁ‥‥‥。なにをやってる?」

「だから、自転車で競争してただけですが」

今度は少しお年をめされたおまわりさん。
「自転車はなぁ。軽車両なんだよ。わかるか?」

このおまわりさんの説明が、まず、今回の答えのひとつなのですが
軽車両である自転車は、速度制限の標識のある場所ではそれには従わなくてはならない。
まずこれが第一です。
したがって罰則は軽車両に準ずる。速度標識のない道路での自転車には制限速度はない(これ知りませんでした)。

といったものですが、これはもはや、実は、おまわりさんにとって、どうでもいいことなのでした。
つまり。事態は「道路交通法」の範囲ではなかった、ということです。

しかし「自転車にはスピードメーターも免許もない」という、圧倒的な自信にささえられておりました我々は、あいもかわらずヘラヘラとこの話を聞き流しており、どこでどういう小手先のへりくつを言うか考えておりました。

「おまえら、○○高校の生徒だよなぁ?」

「いえ。僕たち早稲田大学のボート部のもんです!ただいま春の合宿中っす!」

 おいおい‥‥‥空気読めよ‥‥‥‥。だいたいどっから出て来たんだ?早稲田大学‥‥‥

 ぶちっ

おまわりさんのぶち切れる音が聴こえるようでした。


「逮捕ー!!」


へ?

そうです。我々、このくっだらねーギャグで逮捕されちゃいました。

????

確かにくだらんギャグでしたが、ギャグがくだらないと逮捕されるのか?日本って国はギャグの自由が保証されているのではないのか?

「おまえらの行為はなぁ。故意で警察の公務を妨害してんだよ!」
「したがって○時○○分、公務執行妨害で逮捕!」

え?ギャグが?

なわけありません。そうです。
警察の取締執行行為を妨害していた、というのが言い分。
確かに、我々のおかげで数台の車が捕まりませんでした。

この急展開には、ヘラヘラしていた我々も、さすがに青ざめました。

「今、おまえらの学校に連絡してるから」
「ほかにも仲間いたなぁ?同じボート部か?あん?」


すっかり意気が上がっている駐在さん。

「いえ‥‥‥彼らは駒沢のホッケー部‥‥‥‥‥」

ぶちぶちっ

この期におよんで、まだ懲りない友人の返答に、さらにぶち切れる駐在さん。

実は、この友人。兄がなんと警察官。したがって、警察に対する免疫が我々より強いのです。
我々一般人は、あの制服だけでもけっこう威圧されるものがありますが、彼は毎日見慣れているわけです。
当然、同じ所轄の駐在さんは、彼の兄をご存知でした。

「おまえの兄ちゃんも呼ぶからな!」

「はぁ‥‥‥‥」

事態はすでにドツボ。ひとこと話すごとに事態は悪化してまいりました。

1時間後。駐在所に「移送」された我々は、学校の先生4名と、父兄まで呼びつけられ、夕刻までたっぷりと説教をくらい、しまいには「停学」というオマケまでいただいてしまいました。
「自転車で停学」は、学校創立以来初めてだそうです・・・当たり前だけど。
そのかわり、刑事罰としての「公務執行妨害罪」はちゃら、ということになりましたが。

最後に駐在さんが僕に声をかけました。

「おいママチャリのお前」

「はい?」

「お前な。30km出てなかったから」

測定できるんだ~。

‥‥‥‥って、違反してないじゃん!



     ---- 完 ----


というわけで勃発した『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』。
第一章はこちらから→


俺たちは風(続々編)へ|第1章 宣戦布告へ→
エッセイ『靴の墓場』

スポンサー