ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
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いろいろと、やる気も出したりしたんですが、

しろくまさんの進言に従うことにいたしました。



ぼくたちと駐在さんの700日戦争

最終章



サヨナラ西条



「お父さん。折り入ってお願いがあります」

「君の父親になった覚えはない」

「言われると思ってました・・・・」

「わかっているなら言うな。ダムに浮かびたいのか?」
「お父さん!」「アナタ!」

「いえ・・・・・では、単刀直入に用件だけ言います」

「なにかな?」

「和美さんと・・・・・和美さんと結婚させてください!」



第1話 諦める理由


11月の文化祭を過ぎると、僕たち3年生は、いっきに進路一色になり、大人と高校生の狭間に置かれます。

「暇だな・・・・」

「それは駐在さんだけでしょう」

「たまには、2人乗りくらいしてみたらどうだ?ママチャリ。ママチャリの名が泣くぞ」

「いや・・・・・警察官が言うことじゃないでしょ?」

慌ただしい僕たちと裏腹に、駐在さんは、メチャメチャたいくつそうです。

「西条はどうした?」

「西条は、面接で公休です。久保たちも・・・・」

もっとも久保くんは、ちょっと怪しいのですが。

「しかたない。まぁ、茶でも入れろ」

「いいですけど・・・・高校生にお茶を入れさせる駐在所って、たぶんここだけですよね?」

「高校生が居座る駐在所も、たぶんここだけだからな」

「それはまぁ・・・・そうですけど」


ちょうどストーブの上のヤカンがチンチン言い出した頃に、

「ママチャリはどうするんだ?」

「もちろん飲みますよ。駐在さんに入れるだけなんて、まっぴらです」

「そうじゃなくて・・・・」

あ・・・・・。

駐在さんが言いたかったのは、

「進路・・・ですか?」

「そうだ。もう決めたのか?」

「いえ・・・・・」

学年の9割が進路を決めた中、僕はまだ進路を決めかねていました。

残りは数名。

進学か就職かさえ決めていないのは、僕ひとりです。


「相模先生の音大に行くんじゃなかったのか?」

「いえ・・・・」

相模コーチは、僕に武蔵●音大行きを強く薦めていましたが、薦められたから入れるというわけではありません。

「成績、それほどよくないし・・・・」

「よーーーく知っとる!」

「・・・・・・」


「それに、あそこはピアノかバイオリンの実技があるんですよ・・・・」

駐在さんは、しばらく黙ってから、

「やっぱり右手、ダメなのか・・・・?」

遠慮ぎみに尋ねました。

「・・・・日常の動きは普通にできるんですけど・・・・ピアノとなると話は別ですからね・・・・」

ちょうど1年ほど前、僕は右京に右手をズタズタにやられて、
それ以来、指が思ったようように動きません。

「つまらんヤツにかかわるからだ!」

今や怒ってくれるのも駐在さんだけ。

「いや・・・・どっちにしろ、ピアノたいしたことないですもん。井上の半分も弾けません」

「ならバイオリンで受ければいいだろ」

「もっとダメです。『神田川』ぐらいしか弾けません」

「『神田川』で受ければいいだろが!」

どうも、駐在さんは、音楽大学というものを分かっていないようです。


「あ!」

「はい?」

「アレはダメなのか?精霊なんとか!」

「『精霊流し』ですか?グレープの?」

「そう!それだ!」

やっぱり、よく分かってないようです・・・・。

「そんなの弾けるくらいなら、今頃『さだまさし』やってますよ」

「それもそうだな」

納得しちゃってるよ・・・。この人は。


駐在さんは、お茶をすすってから、またしばらく黙っていましたが、

「ママチャリ。人生は2度ないぞ」

「ええ・・・・。知ってます」

「いや。キサマらはまったく分かってない」



<明後日、ぼく駐24巻発売。同時に、関東圏ではTV東京『午後のロードショー』で、ぼく駐やります!>


第2話 諦める理由②


「へーーーー、駐在がそんなことを?おっと!」

「うん」

「ひょっとしたら、駐在のヤツ‥‥‥イテ!やりやがったな!」

「なに?」

「ひょっとしたら‥‥‥この野郎!」

「あ、いいよ、孝昭。そっち終わってからで」

「わりぃな!すぐ片付けっからよ!」

卒業が間近になると、田舎のワルたちは、みんな地元を巣立ってしまうので、その前にケジメをつけにやって来ます。

週1のペースで、なんらかの揉め事を繰り返して来た孝昭くんや西条くんは、「お礼参り」だらけ。
言ってみれば今が総仕上げの時期です。

「テメェ!シネや!」

「へ!助っ人呼んでその程度かよ!」

「なんだとぉ!」

もちろん、一度やられたヤツらが、単純に同じテツを踏むはずもなく。
たいていは助っ人を呼ぶか、凶器を増やして来るので、前回の闘いよりは、数段やっかいになります。

あの孝昭くんでさえ、

「うぼっ‥‥!!」

モロに、ボディをくらいました!

「孝昭!」

見ると孝昭くんの白いシャツが血に染まっています!

 まさか刃物!?

「いいから来んなっての!」

どうやら孝昭くんは無事なよう?

逆にボディをくらわせた相手が血に染まった手をかかえてもんどりうっています。

「???」

それからはもう、孝昭くんの猛攻!

2人をまたたく間にかたづけると、

「よせって!孝昭!死ぬぞ!」

例によって、僕が止めに入るまで、トドメを打ち続けます。

「けっ!お礼参り来るんなら、もうちっと手応えあるの連れて来い!ボケが!」


「孝昭‥‥‥‥腹‥‥‥‥‥‥」

血染めの腹部が気になります。

「あ?これ?ヤツの手の血だ。実は剣山しこんでんだ」

「剣山!?」

「ああ、それも真鍮の荒いヤツな。コマいヤツだとささんねぇからな」

「・・・・・・」

孝昭くんに言わせると、この時期、不良たちでも顔を狙うと、就職の面接やらに支障が出るので、まず90%ボディ狙いで来るのだとか。

「それで相手が就職しそこねたりしたら、一生、寝覚め悪ぃだろが」

「まぁ・・・・・」

ワルには、ワルのルールがあるわけです。

「それで腹に剣山を?」

「まぁな」

さすが孝昭くん。手段を選びません。

「前回、腹で剣山が裏返りやがってよー。痛かったー」

「裏返った・・・・・」

さすが孝昭くん・・・・。


「ふうん・・・・駐在がそんなことをなぁ・・・・」

「うん。子供だ、子供だと思ってたら、駐在さんも大人になったよね」

「ハハ‥‥‥。まったくだ!」

けれども。


「・・・それって、駐在。転勤するんじゃねぇのか?」



今日は24巻発売日と、テレビ東京が映画『ぼく駐』やったんで、Twitterのワードで「駐在」と「700日戦争」がともにベスト10入りしてましたね。
「中京高校」を抜いてた(笑)
観た人多かったんだなー。特に栃木県民。


最終章『サヨナラ西条』

第3話 諦める理由③



そっか・・・・。

駐在さんも転勤か・・・・・。

ありえないことではありませんでした。

そして、一番、聞きたくない言葉のひとつでもありました。

「ま、どっちにしろ、俺らも卒業だからな」

「うん・・・・」

孝昭くんは、早々に仙台の自動車専門学校への入学を決め、卒業後には戻って来ることも決めていました。

入学試験はあるものの、まず落とされることはないので、今のところ、最も進路がハッキリしているのが孝昭くんです。

それでも、一旦は町を去ることに思いがあるのか。

バス停まで歩いて来て、

「ここ、覚えてっか?」

孝昭くんが、まるで久しぶりに訪れたかのように言いました。

「ああ」

そこは、かつて「原爆ばあさん」が住んでいた家の前。

僕と西条くんは、ここの土手下に隠れて、バスに乗る女子工員さんのスカートがめくれあがるのを待ったのです。(『桜月夜』)

ところが、それが日曜日で、女子工員さんではなく、降りて来たのが早苗さん。

「西条、いきなり殴られてな」

「わはははは!そりゃ、姉ちゃんのパンツ見たんじゃなぁー」

「めちゃめちゃ怖かった」

逃げて逃げて

逃げ込んだのが、これまた孝昭くんの家だったわけですが、

これがまさかの「姉」!

家は当然同じですから、

「テメェらのせいで、俺まで土下座させられた」

「ゴメン・・・・」

でも、疑問はあります。

「弟って、姉のパンツ見ちゃダメなの?」

「いいわけねーだろーーーーー」

「そうなんだ?」

僕たちは、それから、西条くんが、早苗さん似のエログラビアを持って来た時のことを思い出して、しこたま笑いました。

だから。

孝昭くんの家に入って、そこに早苗さんと、もうひとり。

「西条!?」「なんでここに!?」

西条くんがいるのを見た時には、ずいぶんと驚いたのです。

思えば、西条くんが、ひとりで早苗さんといるというのは初めてのことでしたから。

西条くん、こう見えて、孝昭くんを待つ時でも、けっしてひとりでは上がったりしません。

「ね、姉ちゃん!大丈夫だったか?」

「ハア?」

「いや。西条と二人っきりでよ。ヘンなことされなかったか?」

すると、西条くんが、

「あ?俺が早苗お姉さんを?天地がひっくり返ったってそんなこ‥」

 ドスッ!

「こ・・・・虎視眈々と狙ってました・・・・・」

「よし!」

なにが「よし!」?

このへんの早苗さんの「乙女心」が分かりません。


早苗さんが、コーヒーを入れに席を立つと、元祖3人組。(『SIDE BY SIDE』)

「西条。面接は?」

「あ?面接なんぞあるわけないだろ」

「やっぱりな」「サボりかよ」

西条くんは、かつて僕たちが、ゆき姉の銀行に預金するために100台洗車させられた中古車屋(『小さな太陽』)に入社することになっていました。

あそこの社長は、西条くんとは、競馬仲間でもあり(『走れ!チャーリー号』))、今さら面接もなかったのです。

「なんでここに?」

「いや。ちっと重要な話があってな」

「姉ちゃんに?」
「告白でも?」

「あ?俺が早苗お姉さんに?わははは!お前ら、面白‥」

バキィ!

「きょ・・・・今日こそはと、心に決めてまいりました・・・・・」

バキィ!

「キモチわりいんだよ!ド変態西条が!」

「い・・・・いったいなんて言えば・・・・・・」

早苗さんの乙女心は、僕らの推測外にあります。


「で?重要な話って?」

「俺からじゃ言いにくい。お姉さん、おねがいします」

「え!アタシから?」

西条くんは、その役目を早苗さんに託しました。


「んーーーー。言いにくいな」

用件は、どうやら僕にあるようで、早苗さんは、孝昭くんと西条くんに部屋に引っ込んでいるよう席払いしました。

今度は、僕と早苗さん、2人きりです。
が、西条くんと違って、僕はこのシチュエーションは慣れっこ。
孝昭くんより多いかも、ってくらい。思えば不思議な縁です。

「あ。早苗さん。ひょっとして、告白ですか?」

バキィ!

冗談なのに・・・・。

「けど、まぁ、近いっちゃ近い」

近い?

「お前、なんとかって女とつき合ってたよな?タマ恵だっけ?」

「えっと・・・・和美のことですか?」

「そう!そのタマ子!」

「和美ですってば・・・・」

1文字も合ってない。

「結婚すんのか?」

「はあ?」

唐突でした。




第4話 諦める理由④


早苗さんが、唐突に玉恵‥‥和美ちゃんの名前を出した理由。

「じゃぁ、別れろ」

「は?」

もちろん、早苗さんにそんなことを決められる筋合いはないわけですが。

「実はな‥‥‥‥‥」


「お蝶が妊娠した」


「は?」

僕は、早苗さん‥‥‥このアマが何を言っているのか、最初は分かりませんでした。

「聞こえなかったか?」

「ええ‥‥‥‥今年のプールで耳に水が入ったままみたいで‥‥‥‥‥」


「お蝶が妊娠した」



「‥‥‥‥聞こえたか?」

「え‥‥‥‥ええ‥‥‥‥‥聞こえましたけど‥‥‥‥‥」

ショックでなかったと言えばウソになります。

グレート井上くんの許嫁とは言えど、どこか花ちゃんには、惹かれていたことも確かですから。


「そりゃヨカッタ!」

なにが? ヨカッタ?

「えっと‥‥‥‥それと玉恵と、どういう関係が?」

玉恵定着。

「それがな‥‥‥‥‥」

「はい‥‥‥‥」

「お蝶は、お前の子だと言ってる」

「へ?」

「聞こえなかったか?」

「ええ‥‥‥‥子供の頃に耳かきが耳の中で折れて入ったままなんで‥‥‥‥‥」


「お蝶は、お前の子だと言ってる」


えええええええ!?


「ヤっちまったな!」

「いや‥‥‥‥‥‥」

ヤっちまったって‥‥‥‥

「お前も、いよいよパパだなぁ〜」

「な、な、な、なに言ってんですか!!」

なにフツウにメデたいことのように!


「僕、花ちゃんとは、やってませんよ!?」

「じゃぁ、どの女とはヤったんだ?」

「いや‥‥‥‥そういう意味じゃなくって‥‥‥‥‥」


「お前、花と一晩、ホテルで明かしたんだってな?」(『カナリ屋食堂繁盛記』)

「ぐ‥‥‥‥‥!そ、それは‥‥‥‥‥‥」

しまった‥‥‥‥‥!

「でも、その時は、泊まったってだけで‥‥‥‥」

「そんなヘリクツが通れば、小伝馬町に岡っ引きはいらねぇよ!」

小伝馬町の岡っ引き‥‥‥‥‥‥

きっとなにか時代劇を見た後なのだな、ということは分かりましたが、それどころじゃありません!

「そのことを‥‥‥‥西条も?」

「いまや町ではその話題でもちきり!」

持ち切りって‥‥‥‥‥。

そんな『明星』みたいな‥‥‥‥。

「だいたいにおいて、僕が花ちゃんと泊まったのって先月なんですけど?」

1ヶ月では妊娠してるかどうかは分かりません。
と言うか、ヤってないんですけど。

「さすが、お前の精子は速いな!」

「いやいやいや‥‥‥‥‥‥」

そんな馬鹿な話‥‥

「あああ!男はいっつもこうだ!いざとなると逃げやがって!」

「いや、逃げるとかそういうのでは‥‥‥‥」

「お蝶本人がそう言うんだから、しかたねぇだろ」

花ちゃんが!?

「じょ、冗談じゃありませんよ!」

「だったら、本人に確認してみろ」

電話を指差しました。

「ええ!もちろん」

望むところです!

ここは、キッチリ、カタをつけないと、とんでもないことになります。

もし、西条 → グレート井上くんの耳に入ったらシャレになりません。


受話器を持つ手にも、力が入りましたが。

”ヘイ毎度!おいしいケーキなら洋菓子メルヘン!”

電話に出たのはケンちゃんでした。

毎度のことながら、とてもケーキ屋とは思えぬ勢いのよさ。

「あ、もしもし?あの、姪御さんに電話を‥‥‥」

”あ?ガチャピンか?”

「え、ええ‥‥‥」

すると、


”テメェ。ヤっちまったなああああああ!”


「え!いや‥‥‥‥‥」

ケ、ケンちゃんにも広まってる!?


”責任はとるよなぁあ?え?ガチャピン”


人生、終わった‥‥‥‥‥‥‥‥‥!




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