ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
最新話(6/22) 改訂中(8/7) 最新記事(6/20) ラジオ(6/19) アジト教室14 掲示板

「明けましておめでとうございます。栗林部長」

「やぁ、わざわざ来たのか。ご苦労さま」

「ええ、一応、新しい赴任地を確認がてら」

「そっかそっか。ささ、どうぞ足を伸ばして。奥さんも・・・えっとー・・・・」

「妻の加奈子です」

「ああ、そうでしたな。噂にたがわずお美しい」

「そんな・・・」

俺は、女房とつれだって、今年の春から赴任する駐在所を訪ねた。

現在の駐在員は栗林巡査部長。俺よりはるか先輩で、あと2年で退官される。

「ところで・・・・」

「うん?なにかね?」

普通、それくらいしか在任期間がない場合は、そのまま転勤しないものだが、今回は異例の転任となった。

つまり、なにがしかの「事情があった」ということだ。

「伺いにくいのですが・・・・」

「かまわないよ。言ってみたまえ」

栗林部長は、『ホトケの栗林』と言われるほどの人格者として、赴任地での評判も高い。

落ち度があったとは思えない。

あと考えられることは・・・・・


「・・・ところで、駐在所前の、あの巨大な鏡餅はなんですか?」


「あーーー・・・アレねーーー・・・・」


あと考えられることは、赴任地に問題があるということだ。

だからこそ、元マル暴の俺を抜擢した、ということが考えられる。

「部長がお作りになられたので?」

「まさか。あんな巨大なもの」

「確かに」

なにしろ、その『鏡餅』は高さが3メートル近くある。

最上部のダイダイは、この駐在所の屋根より高い。


「・・・・大晦日の寺の警邏から帰って来たら、突然あったんだよね〜〜」


「突然・・・・」「あった・・・・?」

あんな巨大な物が?

「じゃぁ・・・地元の子供たちが?」

「子供って言うかー・・・・たぶん高校生だね」


「「高校生?」」


この駐在所は、『高校前駐在所』が通称になっているくらい、近くに県立高校がある。

「え?じゃ、犯人・・・っていうか、造った者が分かっていらっしゃるんで?」

「ウン。分かるよ。他に考えられん」

「さすが栗林部長ですな」

栗林部長は、何度か刑事への昇級を試みたことがあるらしい。

「それがそうでもない」

「?」

「キミたちも、ここへ赴任すればすぐ分かるよ。ハハ・・・・」

力なく笑う栗林部長。

キミ「たち」?

女房の加奈子は、こう言ってはなんだが、ちょっとニブいので、

「やはり、栗林さんは地元の方から愛されてるんですのね」

「ん〜〜〜〜、愛されてるってのとは、また少し違うかな〜〜〜〜」

「「?」」

「あんな物かざられて・・・私ゃ本部長がもしいらっしゃったらと、ヒヤヒヤだよ・・・・・」

「まぁ、そうかも知れませんなぁ・・・・」

普通に考えて、あんな物つくる暇があるならパトロールのひとつもしろ、というものだろう。

かと言って、栗林部長ご夫婦で、あの巨大オブジェを取り壊すのはひと苦労であろう。

「あの・・・本官が取り壊しておきましょうか?」

「いや、いいよ・・・・縁起物だし・・・・・。屋根の下に積もった雪をどけなかった私も悪いんだ」

人格者、栗林部長らしい。

「・・・・それに、とり壊すと、次は何に変化するか分からないし」

「「変化!?」」


俺は、なぜ自分がここに赴任が決まったのか、少しだけ分かった気がした。



 ・・・・つづく。かも?


<好評にお応えして第2話!>


そこへ、栗林巡査部長の奥方が、

「去年は、大黒様でしたかね〜」

餅などを持って話に加わった。

「大黒様?」「まぁ・・・・」

「ああ、アレは元はサンタだったんだがな・・・」

「サンタ?」「まぁ・・・・」

「・・・そう言えば大黒様と似てますものね」
「バカ!言ってる場合か!」

クリスマスから飾れてたってことだろ。

それはとりもなおさず、警察がナメられてることに他ならない。

高校生ごときが!

「まぁ、この辺りは雪が降れば、どこの土地とか関係ありませんからね。ホホホ」

「奥さんまで。笑いごっちゃないでしょう!」

奥様は、栗林部長より2つほど年上女房で、似た者夫婦の温和な方だ。

ここの高校生どもは、それをいいことに・・・・!

そう考えたら、我がことのように腹が立ってきた。

「やっぱり、本官がとり壊して来ましょう!」

「まぁまぁ」
「それが、そうもまいりませんのよ?」と、奥様。

「?」「?」

「なぜですか?奥様も、あんなデカイもの邪魔でしょうに!」

「鏡開きには、たぶん開きに来るから」

鏡開き・・・・・


「そういうとこは徹底してますものねぇ」
「ああ。徹底してる」

「言ってる場合じゃないでしょー!」

・・・・ところが。

「なにか表がにぎやかですわね」
「ん?」

「あ。来たみたいね」

「なんですか?」

「あの鏡餅は、カマクラになっているんだよ」

「「カマクラ??」」

「これがよくできててね〜。それでね、近所の子供らが遊びに来る。それを警察官が追い返せんだろう」

「し、しかし・・・!」

それこそ一部でも崩れたら警察の責任にもなりかねない話だ。

そのことを言うと、

「あ。それは大丈夫。言ったろ?アレでいて、けっこう考えられているんだよ。ハハ・・・・」

「そうそう」と奥様まで。

「素晴らしいですわね。そこまで高校生を信頼されてるって」
「またオマエは・・・・」能天気なことを!

「ん〜〜〜〜、信頼とは違うんだが・・・・」

そのうちに、駐在所側の玄関から、

 「アケマシテオメデトウゴザイマス!おまわりさん!」
 「オメデトウゴザイマス!」

「ほら、来た!」と、なにやらうれしそうに奥様。

コタツにのっていたミカンを5、6個かかえて駐在所に出て行った。


 「はいはい、明けましておめでとう。お年玉ですよ」

 「「「アリガトウございまーす!」」」


どうやらカマクラに遊びに来た子供たちが、おやつ目当てで訪ねて来たらしい。

今まで俺が赴任してた駐在所では考えられないことだ。

「・・・ほらな?とり壊すわけにいかんだろう?」

「むぅ・・・・・!」

「だいたい、壊せば次の日には2つになるから・・・・」

なんだ?その悪性腫瘍みたいなのは?

しかし栗林ご夫妻の地元民とのふれあいは素晴らしいものがある。

にこやかにもどって来られた奥様を見て、

「おまえ。ミカンは足りたか?」
「足りなかったけど、分けて食べるように言いました」
「なんだ、こっちにまだあったのに」
「そんなにあげてたらキリがありませんよ?ホホホ」

高校生が駐在所前にカマクラを作り。

そこへ子供たちがやって来て遊び。

駐在員の奥さんがお年玉にミカンをあげる。

本官が赴任しても、そんないい関係を続けられるだろうか。

「すると、高校生は、子供たちが遊ぶことを目的に作ったということですか・・・」

「近い!」

「近い?」「まだなにか?」

「子供が遊びに来れば、簡単には壊せないだろうと読んでのことだね」
「そうそう!」

「それと、我々が、お年玉をせびられるのを狙ってかな?ハハ・・・・」
「そうそう!」

「・・・・・・」「・・・・・・」


 「「オマワリさん!アケマシテオメデトー!」」


「ほら、また来た!」
「ホント、おミカンがいくつあっても足りないわ。ホホホ」

「・・・・・・」「・・・・・・」


俺が赴任したら、ゼッタイ逮捕してやる。




”そいつら”との遭遇は、意外なほど早く訪れた。

栗林巡査部長と別れての帰り道、

俺は少し酒が入ってたんで、運転は加奈子。

「私たちまでミカンのお年玉もらっちゃった」

「ほんとに・・・。あんないい人に、まったくとんでもねぇ高校生どもだ」

「あらそう?なんか可愛げない?」

「お前は、相変わらずのどかだな・・・」

”そいつら”に可愛げなどないことは、すぐに証明されることになった。

「あら?さっきの小学生たちじゃない?」

「ん・・・・」

フロントガラスごし、目の前を自転車をこいでいる小学生の群れを発見。

「雪つもってんのに、自転車とは・・・」

「元気いいわね」

「いや、それ以前に、危ねーだろ?」加奈子ときたら、まったく‥‥‥。

俺は、車の速度をゆるめて距離をとるよう加奈子に言った。

追い越しぎわに転ばれたりしたら、車が止まる保証がない。


ところが・・・

ほどなく、その小学生たちが、2、3人の高校生風のヤツらに止められていた。

怯え切っているような小学生を見て、俺は警察官の直感で分かった。


「アイツらだ」、と。


「アイツらって?」

「ま、お前にゃわからんだろうな。加奈子、車止めろ」

「どうして車止めるの?」

「正月にゃ多いんだ。小学生はお年玉持ってっからな」

「え・・・・カツアゲ?」

警察官なら、それくらいはひと目で分かる。

案の定、小学生らは横道に引っ張られていった。

「読めた!」

「なにが?」

「高校生どもは、カマクラで小学生を集めておいて、その帰りを狙ってたんだ」

俺の警察官としての勘は、正月早々、我ながら冴えに冴え渡っていた。

そうすれば、間接的に、警察の金を巻き上げられるって寸法だろう。

そうだ!そうに決まってる。

なるほど。悪ガキにしちゃ、よく考えたものだ。

ひとりが神童の息子とか言ってたからな。

「そんな手のこんだことするかしら?高校生が?」

「栗林さんご夫婦の話聞いたろ。学校爆破するようなヤツらだぞ?」(※『桜月夜』)

「なんかの実験で失敗したって言ってなかった?」

「高校生で学校が吹っ飛ぶような実験なんかあるか!本来なら公安の管轄だぞ」

「それもそうだけど・・・・」

「ちょっと、行って来る!」

「いいけど・・・あんまり大ゴトにしないでね?お酒入ってるんだから」

「ほっとけんだろ」

車を降り、ヤツらが小学生を連れ込んだ横道に入る。


・・・・・案の定だった。

「オラ、もらったんだろ?お年玉をよ」
「出せや!」

「これしかないよ・・・・」

「ミカンなんざいらねぇっての!」
「ナメてんのか?ぁあ?」


「ホ、ホントだってば・・・ね?」「ウン・・・・・」

高校生が、小学生にタカるとはとんでもねぇ!

栗林さんご夫婦が考えているより、ずっと見下げたヤツらだ。

見てろ! 思い知らせてやる!

「待てぃ!」

俺は、制服でなかったことに感謝した。
なにしろ、警察の制服着てたんじゃ、できないことはイッパイある。

「ぁあ?なんだぁ?オッサン」
「なんか用か?ぁあ?」


「お前ら、ここでなにやってる」

「オッサンにゃ関係ねぇだろ?」
「子供は子供同士、楽しく遊んでんだからよ」
「な?そうだろ?」


「ウ・・・・・ウン・・・・・」

ガキのくせに、タバコなんぞふかしやがって。
もっとも、俺が吸い始めたのは中学1年だったが。それは置いといて。

「いいから、君たち、帰りなさい」小学生たちに言うと、

「「「「ハ・・・ハイ!」」」」

「コラ待てや!」
「誰が帰っていいつった?」


帰ろうとする小学生と、引き止めようとする高校生で一悶着おきた。

「俺が言った!」

おっと危ない。危うく「本官」とか言っちゃうとこだったぜ〜〜〜。

ここでバレちゃぁつまらんからな。

「でしゃばんなよぉ?オッサン」

いきなり顔を近づけて来たので、


 凹(ボコ)ッ!


「い、いってぇーーー!」

あ〜〜〜、スッキリするぅ〜〜〜〜〜♪

制服着てちゃ、これはさすがにできん。

「「「やりやがったなぁーーー!」」」

「やったがどうした?」

いまこそ、栗林さんの鏡餅の分まで仇とってやる!

「高校生風情が!いきがってんじゃねーぞ!」

雪に足をとられて、思ったよりは時間がかかったが。

まぁ、高校生なんぞ、ケン坊とか『夜叉連』の猛者どもに比べたら赤子のようなもんだ。
(『夜叉連』=黒ヘルのスターダストと派遣を争った暴走族)

「うらぁあーーー!」

ひとりは取り逃がしたが、2人はガラ(身柄の警察用語)を抑えた。

「フッフッフ。社会をナメやがって。高校生どもが」

「ヒッ・・・!」「か、かんべんしてください・・・・・」

栗林巡査長。しっかり仇はとりました!

「お前らも高校生なんだから、オトシマエのつけかたくらいは分かってるよな?」

「オ・・・・オトシマエ?」「・・・って、なんスか?」

「鏡餅だよ、鏡餅!撤去してこい!今すぐ!」

「か・・・鏡餅・・・・って」「なんスか・・・・?」

「鏡餅、知らないのか?」

「鏡餅は知ってますが・・・・」「・・・・撤去って・・・なんでしょう?」

「ばっくれんなよ! カマクラだ、カマクラぁ!」

「カマクラって・・・・・」「なんでしょう・・・・?」


・・・・・・あれ?




駐在所の人員入れ替えは、わずか1日、長くても2日以内に行われる。

地元の治安に支障が出ては困るからだ。

引越しは署の指定業者がほとんどをやってくれるわけだが、俺ぐらい人望があると、いろいろ手伝いもやって来る。

「リーダー。奥さんの荷物はコッチでいいっすか〜?」

「我妻ぁ、その『リーダー』ってのはよせ!」

「あ・・・そうでした!すいません。セーコちゃん」

「それはもっとよせ」

実のところを言えば、引越しで同僚には見られて困る物がひとつだけあった。


加奈子の『ペケS』だ。

ヤマハXS-1

加奈子は同僚の間じゃ「おっとりした美人奥さん」で通ってるからな。

それがよもや、元レディース、それも『ジャスミン』の総長だったなどと、バレては困る。

「そう言えば、ペケSはどうしたんですか?セーコちゃん」

「今は的場んとこに預けてある」

「あ!ここいらで喫茶店やってんでしたね」

「そう言えば、なんか気になるな・・・・ちょっと見て来るか」

まさに警察官の勘というヤツだった。


的場のやってる喫茶店『ポプラ』は、方向こそ違うが、やはり高校の近くにある。

ペケSと言えば、高校生のガキどもの「憧れの的」だ。


案の定・・・・

「あ、的場のヤツ・・・・あんなとこに停めやがって・・・・」

あれじゃ展示会だ。

ポプラの横に停められていたペケSには、すでにガキどもが群がっていやがった・・・。

「うわ〜、ペケSだ〜〜〜!」
「カッケ〜〜〜〜!」
「マスター、新しく買ったのかな?」

まるで角砂糖に群がる蟻だ。

しかたない。

「キミたちキミたち、よその人のバイクをさわっちゃいけないよ」

相手が高校生とは言え、着任早々に地元と問題を起こしたくない。

私服でもあったので、やさしく注意すると、

「「「は〜〜〜〜い」」」

お?意外にも素直?
栗林さんの奥さんもそんなこと言ってたが。まんざら嘘でもなさそうだ。

「オッサンのか?」と、ガキのひとり。

 ムカッ!

・・・と来たが、ここは我慢我慢。

「まーー・・・俺の、知り合いのだ」

知り合いも知り合い。女房のだが、コイツらガキに言ってもしょうがない。

「へ〜〜〜」
「カッコいい〜〜〜」

「わかったら、離れなさい」

「「「え〜〜〜〜〜?」」」

ああ、これだから田舎のガキは・・・・。

するとそのうちのひとりが、

「じゃ、せめてシートを舐めるだけでも・・・」

はぁあ?

「なんだよ〜、西条〜。シート舐めるって〜〜〜〜〜」
「ワハハ!バカか!」
「なに考えてんだ〜?」

「乗ってたのは、このオッサンの知り合いだぞ?」

仲間さえバカにしていたが、


「いや・・・なんか、このXSのシート。すっごい美人がまたいでた気配がする


なにものだ!? コイツは!?




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