5章[花火盗人]第11話 夏まつりの夜(3)
夕子ちゃんは、よほど僕たちを捜したらしく、かなりつかれた表情でした。
「あの、ね。お兄ちゃん、姫沼に行くって、突然言い出して、もし1時間でもどらなかったらみんなに連絡してくれって、これを」。
そこには「姫沼に行く。もどらなかった時は連絡すること」と書いてあり、そこから僕たちのメンバー8人ほどの電話番号がなぐり書きしてありました。
「もし、電話に出なかったらお祭りに行ってるはずだからって。それで私、お家抜け出して・・・」
もう半分ベソをかいている夕子ちゃん。家を抜け出して祭りにいることだって彼女にとってはたいへんなことです。
僕たちは、あせりました。
「つまり井上は姫沼に行ったんだな?」
事態はそのメモだけで、おおよそ理解できました。
週末には不良たちのたまり場になる姫沼。まして今日は夜祭りです。どんな輩が集まるかわかりません。
井上くんは、美奈子さんの身を案じて姫沼へ向かったのでしょう。
井上くんの家から姫沼まで約20分。つれもどすとすれば、1時間あればじゅうぶんすぎるほどです。
1時間でもどらない場合・・・。
僕はそれ以上を考えるのをやめました。
「電話したんだけど・・・誰もいないんだもん・・・」。
泣きべそ半分の夕子ちゃん。
そうです。その電話のメンバーのほとんどはここにいました。(一応、お断りしておきますが、携帯電話などほど遠い時代のことです)。
「孝昭には?」
「孝昭さんもいなかったから・・・お姉さんに伝言しました」。
「え?え?あ、あのお姉さんと、・・・しゃ、しゃべったわけ?夕子ちゃん・・・」。
うなづく夕子ちゃん。
「ゆ、夕子ちゃん。勇気あるね・・・」。
感心する西条くん。
そうです。孝昭のお姉さんと言えば、4章で登場したみんなが恐れる豹柄のお姉さん。
特に西条くんは、大の苦手でした。
「とにかくあとはまかせて。村山、お前、夕子ちゃん、家まで送ってくれ」。
「わかった」。
「そらからジェミーは駐在さん探して姫沼に美奈子さんが行ったのかすぐ確認して来てくれ。もし、行っているとしたら・・・。すぐ姫沼へ向かうようにと」。
「はい!先輩」。
「バイクで来ているメンバーは全員すぐ姫沼に向かえ。遅いヤツを待つな。早くついた順に井上たちを探すんだ」
今まで西条くん以外ではふれませんでしたが、僕たちのメンバーでは、井上くんとジェミーを除けば、全員がバイクを持っていました。
ただし、排気量は、その家の家計事情や厳しさを露骨に反映して、50cc〜400ccまで、たいへんな広がりがありました。
自転車がママチャリな僕は、ヤマハメイト50ccでした。
「千葉は、他のメンバー、できるだけ集めてくれ。集合は姫沼!」
「OK!」
集合は姫沼。
すごく要領がいいようにうつりますが、僕たちは、西条くんと孝昭くんを除き、こういう事態には極めて不慣れでした。
正直に言えば、バイクに乗りながら、心臓がばくばくいうのがわかりました。
せめて孝昭くんが先についていてくれることを祈るばかりです。
彼なら、2、3人のチンピラならなんとかなるはずでした。
フルスピードで姫沼へ向かう僕たち(と言っても60kmそこそこしか出ないのですが)。
しばらくして、その横にヤマハの650ccに乗った女性が並んで来ました。
見覚えのないバイクです。というか、当時、こんな大きなバイクに乗る女性自体めずらしかったので、僕と西条くんは驚きました。
その女性、フルフェイスの風防を開けると
「きみたち!」
あ・・あれ?美奈子さん?・・・違う・・・
奥さん??
「えーーーーーーっ!?」
バイクの爆音を背景に、奥さんが叫びました。
「驚いた?昔乗ってたの」。
そりゃ驚きます。
「秘密兵器 オートバイ1号よ!」
オートバイ1号って・・・夫婦でそのまんま・・・・。
「妹が心配だから、先に行くわね!」
すさまじい速度で650を駆る奥さん。かっこいい・・・・。
Dax50の西条くんとヤマハメイトの僕は、呆然と見送りました。
「奥さんが元レディースって噂・・・ホントだったんだ・・・」。
「ああ・・・驚きだな・・・」。
(『3章まで登場した人たち』参照)
僕たちがようやく姫沼にたどりついた時、井上くんたちの姿はありませんでした。
「くそっ」
先についた(スピードの速い)バイクの面々が知らせに来ました。
「井上の自転車があった!」。
ついで奥さんが僕たちの元へ。
「あっちに美奈子の望遠鏡・・・倒れてたわ・・・」。
ウソだろ・・・・。
「私はあっち探して来る」
奥さんはバイクで走り去りました。
「どこかに連れ込まれたってことか?」
「奥だ。奥を探そう」。
「なんでわかる?」
「悪いことをするときは、誰でも奥へ行きたがるものだろ?」
「なるほど、な」。
「トレール(オフロードバイクです)で来てるやつは、回って探してくれ。いずれにせよ乗り物を停められるくらいな場所だ。残りは走ってさがそう」。
「井上ーーーーーーーーーーーーーっ」
「井上ーーーーーーーーーーーーーっ」
「井上ーーーーーーーーーーーーーっ」
「美奈子さーーーーーーーーーーーんっ」
僕たちは声を限りに叫びました。
100mほども歩いたでしょうか。
「井上ーーーーーーーーーーーーーっ」
「あ!あれ!あそこを見ろ!」
さらに百メートルほど向こうでなにかが光りました。
ドラゴンの火だ・・・・・。
「みんな!あそこだ!あそこに向かえ!」
なぜそこでドラゴンが光ったのか。どうしてそこに井上くんたちがいると思ったのか。説明はつきませんでした。が、間違いなくそこに彼らがいる、と確信したのです。
目指した場所の少し前に、バイクを1台発見しました。
「おい。これ、孝昭のCBだ!」
「そうか。孝昭、先についたんだな!」。
僕たちは、少しだけ胸をなでおろしました。少なくとも、優男の井上くんひとりよりは、ずいぶんとましだからです。
「井上ーーーー!どこだーーーーーー!」
「孝昭ーーーーーーーーー!」
叫ぶ僕たちの目前を、6台ほどのオートバイが猛烈な勢いで通り過ぎました。
「あいつらか・・・・!」
「ん?あいつは・・・・」。
西条くんは、逃げて行った連中に心当たりがあるようでした。
「西条、知ってるのか?」
「ああ。たぶんな。このへんの不良はだいたいわかるよ」。
そこは、道路から少し入った茂みでした。
僕たちが恐れていたことは、まさに現実だったのです。
「井上・・・・」。
「美奈子さん・・・・・」。
そこには、暗闇の中で、うつぶせに倒れた井上くん。
その横で、かばうようにぼろぼろと泣き崩れた美奈子さん。
そして、メットをかぶったままで木によりかかるようにして座った孝昭くんがいました。
メットを脱ぎながら、孝昭くんが言いました。
「西条・・・・。おせーよ。馬鹿・・・・」。
「すまん・・・」。


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5章-第12話へつづく
夕子ちゃんは、よほど僕たちを捜したらしく、かなりつかれた表情でした。
「あの、ね。お兄ちゃん、姫沼に行くって、突然言い出して、もし1時間でもどらなかったらみんなに連絡してくれって、これを」。
そこには「姫沼に行く。もどらなかった時は連絡すること」と書いてあり、そこから僕たちのメンバー8人ほどの電話番号がなぐり書きしてありました。
「もし、電話に出なかったらお祭りに行ってるはずだからって。それで私、お家抜け出して・・・」
もう半分ベソをかいている夕子ちゃん。家を抜け出して祭りにいることだって彼女にとってはたいへんなことです。
僕たちは、あせりました。
「つまり井上は姫沼に行ったんだな?」
事態はそのメモだけで、おおよそ理解できました。
週末には不良たちのたまり場になる姫沼。まして今日は夜祭りです。どんな輩が集まるかわかりません。
井上くんは、美奈子さんの身を案じて姫沼へ向かったのでしょう。
井上くんの家から姫沼まで約20分。つれもどすとすれば、1時間あればじゅうぶんすぎるほどです。
1時間でもどらない場合・・・。
僕はそれ以上を考えるのをやめました。
「電話したんだけど・・・誰もいないんだもん・・・」。
泣きべそ半分の夕子ちゃん。
そうです。その電話のメンバーのほとんどはここにいました。(一応、お断りしておきますが、携帯電話などほど遠い時代のことです)。
「孝昭には?」
「孝昭さんもいなかったから・・・お姉さんに伝言しました」。
「え?え?あ、あのお姉さんと、・・・しゃ、しゃべったわけ?夕子ちゃん・・・」。
うなづく夕子ちゃん。
「ゆ、夕子ちゃん。勇気あるね・・・」。
感心する西条くん。
そうです。孝昭のお姉さんと言えば、4章で登場したみんなが恐れる豹柄のお姉さん。
特に西条くんは、大の苦手でした。
「とにかくあとはまかせて。村山、お前、夕子ちゃん、家まで送ってくれ」。
「わかった」。
「そらからジェミーは駐在さん探して姫沼に美奈子さんが行ったのかすぐ確認して来てくれ。もし、行っているとしたら・・・。すぐ姫沼へ向かうようにと」。
「はい!先輩」。
「バイクで来ているメンバーは全員すぐ姫沼に向かえ。遅いヤツを待つな。早くついた順に井上たちを探すんだ」
今まで西条くん以外ではふれませんでしたが、僕たちのメンバーでは、井上くんとジェミーを除けば、全員がバイクを持っていました。
ただし、排気量は、その家の家計事情や厳しさを露骨に反映して、50cc〜400ccまで、たいへんな広がりがありました。
自転車がママチャリな僕は、ヤマハメイト50ccでした。
「千葉は、他のメンバー、できるだけ集めてくれ。集合は姫沼!」
「OK!」
集合は姫沼。
すごく要領がいいようにうつりますが、僕たちは、西条くんと孝昭くんを除き、こういう事態には極めて不慣れでした。
正直に言えば、バイクに乗りながら、心臓がばくばくいうのがわかりました。
せめて孝昭くんが先についていてくれることを祈るばかりです。
彼なら、2、3人のチンピラならなんとかなるはずでした。
フルスピードで姫沼へ向かう僕たち(と言っても60kmそこそこしか出ないのですが)。
しばらくして、その横にヤマハの650ccに乗った女性が並んで来ました。
見覚えのないバイクです。というか、当時、こんな大きなバイクに乗る女性自体めずらしかったので、僕と西条くんは驚きました。
その女性、フルフェイスの風防を開けると
「きみたち!」
あ・・あれ?美奈子さん?・・・違う・・・
奥さん??
「えーーーーーーっ!?」
バイクの爆音を背景に、奥さんが叫びました。
「驚いた?昔乗ってたの」。
そりゃ驚きます。
「秘密兵器 オートバイ1号よ!」
オートバイ1号って・・・夫婦でそのまんま・・・・。
「妹が心配だから、先に行くわね!」
すさまじい速度で650を駆る奥さん。かっこいい・・・・。
Dax50の西条くんとヤマハメイトの僕は、呆然と見送りました。
「奥さんが元レディースって噂・・・ホントだったんだ・・・」。
「ああ・・・驚きだな・・・」。
(『3章まで登場した人たち』参照)
僕たちがようやく姫沼にたどりついた時、井上くんたちの姿はありませんでした。
「くそっ」
先についた(スピードの速い)バイクの面々が知らせに来ました。
「井上の自転車があった!」。
ついで奥さんが僕たちの元へ。
「あっちに美奈子の望遠鏡・・・倒れてたわ・・・」。
ウソだろ・・・・。
「私はあっち探して来る」
奥さんはバイクで走り去りました。
「どこかに連れ込まれたってことか?」
「奥だ。奥を探そう」。
「なんでわかる?」
「悪いことをするときは、誰でも奥へ行きたがるものだろ?」
「なるほど、な」。
「トレール(オフロードバイクです)で来てるやつは、回って探してくれ。いずれにせよ乗り物を停められるくらいな場所だ。残りは走ってさがそう」。
「井上ーーーーーーーーーーーーーっ」
「井上ーーーーーーーーーーーーーっ」
「井上ーーーーーーーーーーーーーっ」
「美奈子さーーーーーーーーーーーんっ」
僕たちは声を限りに叫びました。
100mほども歩いたでしょうか。
「井上ーーーーーーーーーーーーーっ」
「あ!あれ!あそこを見ろ!」
さらに百メートルほど向こうでなにかが光りました。
ドラゴンの火だ・・・・・。
「みんな!あそこだ!あそこに向かえ!」
なぜそこでドラゴンが光ったのか。どうしてそこに井上くんたちがいると思ったのか。説明はつきませんでした。が、間違いなくそこに彼らがいる、と確信したのです。
目指した場所の少し前に、バイクを1台発見しました。
「おい。これ、孝昭のCBだ!」
「そうか。孝昭、先についたんだな!」。
僕たちは、少しだけ胸をなでおろしました。少なくとも、優男の井上くんひとりよりは、ずいぶんとましだからです。
「井上ーーーー!どこだーーーーーー!」
「孝昭ーーーーーーーーー!」
叫ぶ僕たちの目前を、6台ほどのオートバイが猛烈な勢いで通り過ぎました。
「あいつらか・・・・!」
「ん?あいつは・・・・」。
西条くんは、逃げて行った連中に心当たりがあるようでした。
「西条、知ってるのか?」
「ああ。たぶんな。このへんの不良はだいたいわかるよ」。
そこは、道路から少し入った茂みでした。
僕たちが恐れていたことは、まさに現実だったのです。
「井上・・・・」。
「美奈子さん・・・・・」。
そこには、暗闇の中で、うつぶせに倒れた井上くん。
その横で、かばうようにぼろぼろと泣き崩れた美奈子さん。
そして、メットをかぶったままで木によりかかるようにして座った孝昭くんがいました。
メットを脱ぎながら、孝昭くんが言いました。
「西条・・・・。おせーよ。馬鹿・・・・」。
「すまん・・・」。


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え・・・。まじ・・・・?
い・・・・・・・・1番だぁぁぁぁぁぁ!!!!!
うれしぃ〜〜!!
ぽいんとくれ〜〜!!
孝昭君 かっこいい〜
でも、その孝昭くんが、「西条・・・。おせーよ。馬鹿・・・」。
って、すごく素敵な友情ですね!
感激〜です。